13回 健康塾

血管年齢と動脈硬化

はじめに

血管年齢は最近よく耳にする言葉ですが,一体どうやって血管の年齢なんてわかるんだ?
なんだか怪しい商売か?なんて思っている方いませんか?実はわたし自身,数年前までは信
用していませんでした。今回は,いまどうして血管年齢に注目したのか,血管年齢って何を
みているのかということを皆さんと一緒に勉強したいと思います。

高血圧症,高脂血症,メタボリック症候群,糖尿病,聞き慣れた病気の名前ばかりです。
これらの病気はどうして治療をする必要があるのでしょうか。皆さん,考えてみたことはあ
りますか?それは,こういった病気は脳血管障害(脳梗塞・脳出血)・冠動脈疾患(狭心症
・心筋梗塞)・末梢血管障害動脈(閉塞性動脈硬化症)などといった動脈硬化性疾患を引き
起こし生命に,もしくは生活の質に対して重大な影響を与えるからです。下の図は
NIPPON
DATA80
という日本の198090年代に蓄積されたデータから解析されたまさに日本人のデータ
です。これをみてみると,右に掲げた危険因子数が増加すると共に冠動脈疾患(狭心症・心
筋梗塞)・脳卒中(脳梗塞・脳出血)の危険率が増加していることがわかります。そしてこ
の冠動脈疾患も脳卒中も動脈硬化性疾患に含まれます。



















 図1.動脈硬化性疾患への危険因子保有数と相対危険度


動脈硬化の成り立ち

動脈硬化の進む様子は左の図のよ
うな経過をたどります。血管の内
側を裏打ちしている内皮細胞は血
管を広げたり血栓を予防する物質
を出したり動脈硬化を予防する有
益な因子を作っています。動脈硬
化の第一歩はこの血管内皮細胞の
障害にあります。そして,動脈硬
化の原因になる悪玉コレステロー
ルである
LDLコレステロールが血
管の中に潜り込みそれをマクロフ
ァージという細胞が貪食し,さら
にマクロファージは泡沫細胞とい
う油を沢山含んだものに変身します。それにより粥腫という動脈硬化巣がしっかりと完成し
ます。泡沫細胞やマクロファージはさらに血管を傷害する因子を抄出し続けて血管の壁の破
綻をきたします。そこに血栓ができて突然血流がストップします。これが心臓でおこると急
性心筋梗塞になるのです。

動脈硬化の検査法
動脈硬化の検査方法にはどんな方法があ
るのでしょう。ここでは画像検査を利用
した検査をみてみたいと思います。画像
検査も身体へのダメージのある血管造影
などの検査法とダメージの少ない非侵襲
的な方法があります。非侵襲的な検査法
としては近年のCTの進歩に伴い血管の狭
窄もわかる撮像技術も出てきており,十
分の手術後の経過観察にも利用できるこ
とがわかってきました。頚動脈エコは診
療所でも行われる検査方法で,血管の内
膜と中膜の複合体であるIMTがどのくらい
の厚みを持つか,粥腫がどのくらいの大
きさか,どんな性状かをみて血管の状態をはんだんします。これは頭に行く血管を直接みる
ことのできる方法として評価されています。そして他には血管年齢の測定できる装置として
脈波図・加速度脈波があります。

血管年齢とは

現在日本で多く行われて
いる 脈波検査は上腕(二
の腕)と足首にマンシェッ
トを巻き心臓からそこまで
の脈拍の到達する時間を計
ります。血管は弾力性があ
るので,収縮しておこった
血液の圧をふくらむことで
吸収できます。しかし,血管が硬くなっていると血管はふ
くらむことができずに圧を吸収できません。すると血液の
流れが速くなります。ですから,左の図にある動脈の硬さ
の程度は血管(動脈)の中を進む血液の速度から求められ
るのです。血管年齢の高い方は血流速度の高い状態である
といえます。その原因は大動脈などの血管が弾力性を失っ
たことに原因しています。

なにが血管の硬さ(弾力性)を規定しているのでしょう。
1つは血管にカルシウムがくっついているような動脈硬化で
す。これはなかなか戻すことは困難です。もう一つはいろ
いろな血管を緊張させる物質(例えばアンギオテンシンU
というホルモンに似た物質や自律神経など)で硬くなって
いる場合があります。これは治療や生活習慣の改善によっ
て回復する可能性が残されています。

 



血管年齢は若返るのか

最近わたしたちのクリニックで治療を行った症例の結果をみてみたいと思います。1番目の方
(多少変えてありますがご了承を)は77歳の女性で糖尿病・高脂血症・高血圧があります。
血糖管理,血圧管理共に不十分でした。そこで血糖降下薬とアンギオテンシン変換酵素阻害
薬という種類の降圧薬を使用しました。薬を飲む前と2週間後の血管年齢を 比較しました。

2番目の患者さんは40歳の男性です。近くの医療機関で血圧の上昇と血糖上昇は指摘されてい
ましたが特に治療はしていませんでした。しかし,方の鍼などの症状が出てきたために来院
されました。血圧は208/135mmHgときわめて重症の高血圧症でした。血糖値も275mg/dlと高く
なっていました。腎臓の機能も若干悪くなっていました。腎臓の悪化も血圧から来ている可
能性が大だったので積極的に血圧を低下させる治療を開始しました。そして,塩分制限をし
っかりとするようにお願いしました。そして治療開始前と3週間目の血管年齢の比較をしまし
た。血管年齢が若返っているのがわかりますね。

また,生活習慣も血管年齢に影響することが考えられています。今までのデータでは大豆な
どに入っているイソフラボンやニンニク,減塩は血管年齢を下げることが報告されています。